セルローズファイバーってどんな断熱材?特徴やメリットを徹底解説!|断熱リフォームの匠
コラム
投稿日 2018.06.04 / 更新日 2024.03.22
断熱リフォーム断熱材
セルローズファイバーってどんな断熱材?特徴やメリットを徹底解説!
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矢崎 拓也
環境省認定うちエコ診断士
大学卒業後、断熱にまつわる資格をいくつも取得し、自ら調査や補助金申請の手配、セルロースファイバーの施工から窓の取付まで行える業界でも異色の人物。「日本中の住宅性能の低さを解決したい!」と大きな夢を原動力に戸建住宅の断熱リフォームに取り組む。
こんにちは。《断熱リフォームの匠》の矢崎です。
今回は「セルローズファイバー(セルロースファイバーとも呼ばれる)」について詳しくご紹介していきます。
あまり知られていませんが、セルローズファイバーは非常に優れた断熱材です。
特徴やメリットについて、一緒に勉強していきましょう!
目次
セルローズファイバーってどんな断熱材?
まずはセルローズファイバーがどんな断熱材なのかについてご紹介していきます。
- セルローズファイバーの原料は何?
-
セルローズファイバーは、一見するとホコリの塊のようにも見える断熱材です。灰色で綿のようなふわふわとした手触りをしています。
「こんなのが本当に断熱材なの?」と思うかもしれません。このセルローズファイバー、何を原料に作られていると思いますか?
正解は「新聞紙」です。
セルローズファイバーは新聞紙を再利用して作られた断熱材です。環境に優しいエコな断熱材ともいえます。
- セルローズファイバーの断熱性能のひみつ!
-
元々は新聞紙だったセルローズファイバーが、なぜ断熱材として利用できるのでしょうか?
まずは断熱材の仕組みをおさらいしましょう。
そもそも断熱材はどうして熱を伝えにくくすることができるのでしょうか?それは「動かない空気」をたくさん含むことができるからです。
実は、「動かない空気」こそがもっとも熱を伝えにくい物質です。動かない空気をいかに大量に内包するかで、断熱材の性能は自ずと決まります。
確かにセルローズファイバーは、外見はまるでホコリのような見た目をしています。しかしそれは綿状になるまで細かく裁断されているからです。
裁断された繊維の内側に細かい空気を溜め込むため、断熱材として高い性能を発揮できるのです。
また、セルローズファイバーには他の断熱材にはない「もう一つの動かない空気」を捕まえる仕組みがあります。
それは「木繊維の細胞の中」です。新聞紙は元をたどれば木材を加工して作られるので、木繊維でできていると言えます。木繊維の細胞一つ一つには必ず空隙が存在し、そこに「動かない空気」を抱えています。
セルローズファイバーは、内側と外側のダブルで空気を抱えることができるとても高性能な断熱材なのです。
セルローズファイバーのメリット
セルローズファイバーがどんな断熱材なのか知ってもらったところで、より具体的な「メリット」についてご紹介していきます。
- セルローズファイバーの最大のポイント
-
セルローズファイバーを使う最大のメリット、それは「隅々まで断熱材が行き渡る」ということです。セルローズファイバーは細かくバラバラでふわふわした断熱材です。ということは、狭い隙間にも断熱材が隅々まで行き渡るのです。
「隅々まで施工?そんなの他の断熱材でも当然のことでしょ?」と思われるかもしれません。
確かにその通りで、断熱施工は隙間なく施工することが当たり前です。しかし実は、その当たり前のことが多くの住宅では行われていないのが現状です。
断熱材は、「元々の性質」によって施工が難しくなってしまう場合があります。ボード状の硬い断熱材を例に考えてみましょう。硬質な断熱材には伸縮性がありません。それにより断熱材の周りには隙間がたくさんできることになります。しかしこの数ミリの隙間で建物の断熱性能は大きく低下します。その隙間が冷気の通り道となるからです。
ちょっとくらい大丈夫と思われるかも知れませんが、断熱的に考えるとこの数ミリは見逃せません。
いくら断熱材の性能が良くても、施工性が悪くては本来の性能は発揮されません。その点、バラ状に隙間なく断熱材が充填できるセルローズファイバーは有利なのです。
セルローズファイバーは「理論だけでなく実用性もしっかり伴っている断熱材」であると言えます。
- 調湿効果がある
-
セルローズファイバーは「吸放湿効果」を有しています。吸放湿効果とは、周りの状況に応じて湿気を吸い込んだり吐き出したりする事ができる性質です。多くの断熱材は湿気に強くありません。一度内側に湿気が溜まってしまうと、繊維の奥まで水分が入り込んでなかなか外に排出できないからです。このことが断熱材にカビが生える原因となることもあります。
その点、セルローズファイバーは多少の湿気なら再び放湿することができます。原料が「新聞紙」であるセルローズファイバーならではの特徴と言えるでしょう。
- 高い耐火性能
-
「新聞紙でできた断熱材なんて火事が怖くて使えない」と思うかもしれません。しかしセルローズファイバーで火災のリスクが上がることはありません。なぜなら、セルローズファイバーには防火対策で「ホウ素」が混ぜ込まれており、一般的な断熱材よりもむしろ高い耐火性能を持っているからです。対して、プラスチック系断熱材は簡単に着火し溶けてしまいます。しかも燃えた時に人体に有毒なガスを発生させることがあり、実際に火災による死亡原因となった事例もあります。
もちろんセルローズファイバーは有毒なガスを発生させることはありません。
- 断熱材の中でトップクラスの吸音性能
-
セルローズファイバーは、断熱材の中では珍しい「吸音性能」を持っている断熱材です。
吸音性能のある断熱材を使用することで、外からの環境音は聞こえにくくなり、逆に家の内側からの音は外に漏れにくくなります。
- 水に濡れても大丈夫な撥水性能
-
「新聞紙でできた断熱材って水に弱そう・・・」と思うかもしれませんがご安心ください。「吸放湿してくれる=水に濡れたら吸ってしまう」ということではありません。セルローズファイバーには撥水処理が施されており、水に濡れたときは吸収せずに弾いてしまいます。
この性質は、建物のリスク管理に役立ちます。なぜなら、雨漏りの早期発見につながりやすくなるからです。
万が一雨漏りがあった際、グラスウール断熱材は水をどんどん取り込んでスポンジのようになってしまいます。
結果、発見が遅れて天井裏に水が溜まっている状態がずっと続き、被害が大きくなってしまう可能性があります。
それに対してセルローズファイバーは、水分が断熱材の間を通り抜けてすぐに天井板を濡らします。そうすると、不具合の早期発見にもつながりやすいというわけです。
- 防虫性能
-
「紙の断熱材だと虫に食べられないかも心配・・・」と思うかもしれません。しかしセルローズファイバーは虫の被害に遭う心配も不要です。なぜなら、セルローズファイバーに混ぜ込まれた「ホウ素」は虫がとても苦手な成分でもあるからです。
断熱リフォームの匠ではシロアリが好む断熱材を確かめる実験を行ったことがあります。
その結果、セルローズファイバーを通り抜けようとしたシロアリは全て死んでしまいました。このことから、セルローズファイバーは害虫に強い断熱材であることがわかります。
- 木材由来の健康素材
-
セルローズファイバーは原料は新聞紙ですので、シックハウス症候群の原因となるような有害物質は含まれていません。「さっき言ってた『ホウ素』は人体に影響はないの?」という方もご安心ください。ホウ素も「目薬や洗眼液の成分」として使われている安全性の高い物質です。
また「セルローズファイバーは見た目がアスベストみたいじゃない?」という心配もご無用です。セルローズファイバーの粒子はアスベストよりとても大きく、空気中に飛び散ることはありません。
セルローズファイバーの欠点
これまでご紹介してきたように、セルローズファイバーはあらゆる面で優れた断熱材のように思えます。とはいえ、全く欠点がないわけではありません。
セルローズファイバーには2つの欠点があります。
1つ目の欠点は施工にコストがかかることです。
セルローズファイバーは天然素材でできており製造コストが高く、施工にも高度な技術が必要です。
そのため、通常のグラスウール等の断熱材に比べると施工費も高くなりがちです。
2つ目は、リフォーム時には再施工が必要なことです。
先ほどもご紹介したように、セルローズファイバーは隙間なく隅々まで充填します。
一度セルローズファイバーを施工した床や壁、天井などを開けようすると、セルローズファイバーがこぼれ出てしまいます。
普段は全く困ることはありませんが、もし将来的に「リフォームをしたい」となった時には、一度セルローズファイバーを取り除き、後で再施工する必要があります。
セルローズファイバーの熱伝導率
「セルローズファイバーの良さはなんとなく分かったけど、他の断熱材との比較も見てみたい」
と思われたかもしれません。セルローズファイバーとそれ以外の断熱材を「熱伝導率」という数値で比べてみましょう。
熱伝導率とは、熱の伝わりやすさを表す数値です。
熱伝導率が小さければ小さいほど熱は伝わりにくい、つまり断熱する力が高いと言うことになります。
断熱材 |
熱伝導率 |
---|---|
グラスウール10K |
0.050 |
セルローズファイバー |
0.038 |
高性能グラスウール |
0.036 |
ポリスチレンフォーム |
0.028 |
フェノールフォーム |
0.022 |
ここで紹介した中だと、一番性能が良い断熱材はフェノールフォームとなります。
参考に断熱材以外の素材と比べてみましょう。
参考部材 |
熱伝導率 |
---|---|
アルミニウム |
200 |
ステンレス |
15 |
コンクリート |
1.6 |
ALC |
0.17 |
木材(杉) |
0.12 |
木材、金属、断熱材では熱の伝わりやすさが格段に違うことが分かります。
さて、これらの数値を比べると、「あれ?セルローズファイバーの性能はそんなに良くはないのでは?」と思うかもしれません。
ですが実は、この数値そのものは実際の断熱材の性能にはあまり関係がありません。なぜかというと、断熱性能というのは、「厚み」によって大きく左右されるものだからです。
同じ製造会社の同じ断熱材でも、商品の厚みが2倍なら最終的な断熱性能も2倍となります。
では、断熱材の厚みはどれくらい必要なのかを考えてみましょう。
天井、床など、どれくらいの断熱性能があれば良いのかは、日本の各地域ごとに基準が決められています。断熱材の厚みは、この基準を満たすように決定すれば良いのです。
東京都を例に考えてみましょう。(断熱材のみ)
まずは「熱抵抗値」を参考にします。熱抵抗値とは、材料の熱の伝わりにくさを表した数値です。
施工部位 |
熱抵抗値 |
---|---|
天井 |
4 |
壁 |
2.2 |
床 |
2.2 |
これに、さきほどの熱伝導率を掛けると、その断熱材がどれくらいの厚みが必要なのかが分かります。
それぞれの断熱材で計算してみると、下記のようになります。
まずは天井の厚みから。
断熱材 |
必要な厚み |
---|---|
グラスウール10K |
200mm |
セルローズファイバー |
152mm |
高性能グラスウール |
144mm |
ポリスチレンフォーム |
112mm |
フェノールフォーム |
88mm |
続いて壁・床の厚みです。
断熱材 |
必要な厚み |
---|---|
グラスウール10K |
110mm |
セルローズファイバー |
84mm |
高性能グラスウール |
80mm |
ポリスチレンフォーム |
62mm |
フェノールフォーム |
49mm |
整理してみましょう。
1.床
大引き材の間:90mmのスペースに断熱材が入ります。
2.壁
柱の間:105mmのスペースに断熱材が入ります。
3.天井
野縁から梁までの空間に断熱材が入ります。(200mm以上スペースがあるはずです。)
上記の条件を満たすのであれば、どんな断熱材を使っても同じ効果を得られます。重要なのは、充分な性能を発揮できる厚みで施工することなのです。
セルローズファイバーは断熱欠損しにくい
部位により条件を満たせばどの断熱材を使っても良いとお話しましたが、ここは非常に大事なポイントです。
先ほどもご紹介した「隙間なくしっかり施工できるか」という問題が関わってくるからです。隙間があるとどれくらい断熱性能が下がるのかをみてみましょう。
これは袋入りグラスウールを施工した場合の影響を図示したものです。
隙間ができた状態では、本来の性能の約67%程度しか発揮することができません。また、押し込みすぎも断熱性能の低下に繋がってしまいます。
ということは、「隙間を作る」のも「無理やり詰め込む」のも良くない、ということになります。グラスウールだけでなく、他の断熱材でも似たような結果になるでしょう。
セルローズファイバーはバラ状の断熱材であるという特徴から、隙間ができない断熱材です。逆に「袋入りグラスウール」や「硬質プラスチック系断熱材」だと、わずかなカット誤差でも隙間ができてしまうことになります。
また、「外れやすい」というのも断熱材としては大きな欠点です。床下調査で硬質系断熱材が落下しているのをよく見かけますが、これではもちろん断熱の役割は果たせません。
こういった隙間や欠落のことを、専門的に「断熱欠損」と表現します。断熱欠損が生じる原因は、施工の不備や振動など様々な原因が考えられますが、硬い材質の断熱材にはこのようなリスクがある、ということを覚えておきましょう。
セルローズファイバーのリフォーム方法
元々性能の低い断熱材を使っていたとしても、リフォームをすれば最新の基準まで引き上げることができます。
断熱リフォームの匠では、「天井裏断熱材」と「床下断熱材」のリフォームを行っています。
セルローズファイバーによる断熱リフォームの様子をご紹介していきます。
専用の機械からホースを伸ばし、屋根裏に入り断熱材を吹き込みます。
屋根裏での工事は体の動きが制限されるので、他の断熱材では充分な施工がしづらいのですが、セルローズファイバーなら隙間なく断熱材を施工することが可能です。
天井断熱リフォームの事例はこちらでも紹介していますので、気になる方はぜひご覧ください!
さいごに
今回はセルローズファイバーについてご紹介してきました。
セルローズファイバーはグラスウール断熱材や現場発泡ウレタンフォームなどに比べて採用される機会が少ない断熱材です。しかしその性能はとても高く、私たちの家を見えない場所からそっと守ってくれる、心強い存在となってくれることは間違いありません。
何となくでも「セルローズファイバー良いかも」と感じていただけたら嬉しいです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。